Sunday, March 13, 2011

ピチカート・ファイブ

この、敢えて言えば「必要以上の熱狂」の出所ははっきりしています。ピチカートVの音楽は、現在では数えきれないほどのリリース量に達していますが、総ての曲に終始一貫したテーゼがあります。それは「どうせ世間は酷いニュースばかりなんだ。外は地獄だし地球もいつかは滅ぶかもしれない。だから、音楽が鳴っている間だけは最高にラヴリーでグルーヴィーに踊ろうよ」っていう、まるで60年代のグループサウンズの歌詞みたいな、しかしカントよりも堅牢な鋼鉄の哲学なのです。
この刹那的でディスコティックな美学、そして衣装の陶酔、そして甲高い意地悪な皮肉。この3点の融合に於いて、僕は、ピチカートVこそが、日本にほぼ唯一存在するゲイ・ミュージックだと思っています(小西さん自身はゲイではないと思います。それとこれとは関係ないのです)。ゲイ・ミュージック。中でもハウス・ミュージックは、被差別者による快楽の闘争という意味に於いてブルーズの子孫であり、肌の色による人種差別と違い、外的には峻別できない差異による、いわば「自己申告によって能動的にキャッチした被差別」という意味に於いて、20世紀ブルーズの最後の一形式なのかも知れません。


菊地成孔『スペインの宇宙食』より、「鰻のマトロット(香草と赤ワインでぶつ切りの鰻を煮込んだもの)」から抜粋

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